スポーツ刈りとワックス
今でこそ『髪が伸びたなー』と思えばスマホで美容院を検索&当日予約をして、オーダーもなんとなくの指定だけしてあとはおまかせ、なんての軽〜くやっているが、美容院でそんなにリラックスして注文する様になるとは中学生の頃の俺に話したらビビるのではなかろうか。
中学生にもなると『どうやらオシャレに気を遣うとモテるらしい』と風の噂で聞きつけ、どうやらイケてるらしいジーンズメイトというSHOPでPIKOのTシャツを買ったり、当時出来たてだったユニクロへ行って(怖いので友人についてきてもらった)オレンジのナイロンパーカーを買ったり、パイル地で出来たフィンガーバンドという指輪の様なAKUSEを装備するなどしていたのだが、髪の毛に気を遣うというのはめちゃくちゃハードルが高かった。
当時世間はウルフだのベッカムヘアだのマシュランボーだの整髪料を駆使した髪型が大流行の時代で、男子はこぞって真似をしていた、こぞりまくっていた。それまで床屋でスポーツ刈りというおおよそスポーツから一番遠いヤツしかしていない髪型しかしたことがなかったため、どうすればあのような重力を無視したオシャレな髪型になるのか分からなかった。
で、これまた風の噂でなにやらワックスなるものを使うといいと聞く。ワックスというモノは髪をセットできる力があるのだと!それまでワックスと言えばタートルズの面々が甲羅に塗るとモノという認識しかなかったのだが、そういうワックスもあるらしい。
欲しい。
このスポーティーな髪型もワックスがあればオシャレになるのでは?
もちろん、ワックス以前に髪型をどうにかするのが先決なのだが、美容院童貞にとってはドラッグストアで買い物をするほうが遥かにハードルが低い。目的を今の自分が出来る範囲内でやって結果ビミョーになるというよくある失敗パターンのヤツである。
しかし考えても見てほしい。これまで洗面所につぶ塩しか置いてなかった棚に、急にワックスなどが置かれた日にゃ親は「アラ!マァいいですね~。今日があなたのオシャレ記念日?」ってなもんでお赤飯を炊かれそうで恥ずかしくてしょうがない。
『オシャレでない俺が、オシャレに興味を持った』というの他人に知られるのは、自意識過剰もあいまってかなり恥ずかしかったのである。
なので最初にワックスを購入する際は隠れワックシアンよろしく隣町の奥まった所にあるマツモトキヨシ a.k.a.なんでも欲しがるマミちゃんショップにて店員さんを見ずにワックスを購入し、家族に見つからないようTシャツの中に隠してから帰宅して、即机の鍵付きの引き出しにしまった。初ワックス購入だけでもそれほど恥ずかしかったのである。しかもそれは長髪用のいわゆるソフトワックスなので自分のスポーツ刈りにはサッパリ立たせられなかった。
で、そんな感じでノーワックスで過ごしていたのだけど、オシャレ欲を抑えきれず初美容院に行きたい気持ちがあふれていく。
美容院デビューに関しては何度もチャンスを無駄にした。美容院に行けば床屋よりもオシャレな髪型にしてもらえるのは分かっているのだが
『こんな俺でも美容院は受け入れてくれるのか?』
『どんな髪型にしたいか決まっていないけどオシャレになりたい場合なんと説明したらいいのか?』
『choki chokiで見た髪の知識だけで話して美容師さんに伝わるのか??』
『シェリー、俺は上手く笑えているのか?』
『俺の笑顔は卑屈じゃないかい?』
『海は死にますか?』
など不安材料が多く、電話をかけるのを何度も諦め「いや、今回は床屋でいいや……」と、ビビり、結果ためらいスポーツ刈りというのを5回以上はしている。
最初の美容院体験はサッパリ覚えていないのだが、インタネットの前知識で手に入れた美容師さんに質問されることを丸暗記していたので難はなかったと思う。
初めての美容院も初めてエッチなお店もどちらも同じで、自分の欲望を受け入れるという行為はケッコー恥ずかしいものなのだの思いました。
ということを、長年続けてきたもっさりヘアを辞め、かなりバッサリ切りスポーツ刈りライクな髪型になったのでそんなことを思い出しました。
そしてスポーツは今後もしない。