はじめてのおつかいは牛乳だった

はじめてのおつかいと言えば国民的人気番組かつ、主題歌が「ドーレミファーソーラシドー♪ドーシーラーソーファーミレードー♪」とサビのくせに手抜きが半端ないでお馴染みのTV番組だ。俺は年齢と精神的なもののせいかこのTVを楽しめた事が一度もない。偶然見かけたとしても「ケッ!お涙!お涙!」とまだ素直に観られないコマッシャクレちゃんなのである。でも多分、子供が出来たらボロボロに泣きながら観るんと思う、俺はそういうヤツだ。高校生の時にバカにしまくっていたHi-STANDARDGOING STEADY(略してゴイスタ)を今になって「ええやんええやん!ええやんレトリィバァ〜!」とかヌかしながら聴いてるのできっとそうなるであろう。

 

さて、俺のはじめてのおつかいはしっかりピッカリキッカリ冴えてる頭でピッピと覚えている。目的は牛乳だった。当時は幼稚園くらいだっただろうか?いつもの様に世の中に対する不平不満(公園のブランコを握ると鉄臭くなるだの、おばけのホーリーは本だと無駄に怖い等の)をミロを飲みつつ撒き散らそうと思ったところ、牛乳が空になってしまったのである。このままではミロのパッケージに書かれた緑のユニフォームの選手もスライディング損ってなもんだ。母親の買い物へはよくついて行っていたので「じゃあ、"いよや"で買ってくるよ」と、親に告げお金をもらい外に出たのであった。いよやというのは近所のスーパーの名前である。両親は心配だったと思うが反面嬉しさもあったのではないだろうか?

 

特にトラブルもなくいよやにて牛乳を買った帰り道、強く惹かれるものに目が行ってしまった。ガチャガチャである。普段は親にお願いしてお金をもらわないと出来ない夢の機械ガチャガチャがここにある!そして俺のポッケに小銭がある、そしてボクの背中には羽根があるKinKi Kids{カンサイボーヤ})。もちろんこのお金を使ったら怒られるのは分かっている。欲望と理性が戦っていたのだが、ほどなくして俺はお金を挿入してしまっていた。大人になっても理性と性欲を戦わせるが結局性欲に負けて挿入してしまうって事よくあンじゃん?そういう意味では俺は幼稚園の頃に初体験を済ませているのです。そのガチャガチャは「飛ばせ!!BB弾!!」などとコピーが書かれているピストルのおもちゃであった。幼稚園生ッスよ??ピストルにゃあかなわないっすよ、カレーライスにゃかなわない(真島昌利)。

 

小銭を挿入しハンドルを回そうとした瞬間に俺の心の中に罪悪感というものが宿る。

 

「ハッ!!無断でお金を使ったら怒られる!!!」

 

世の中を騒がしている籠池問題もこれが理由なのだ、俺達は永遠これと戦っていかなくてはいけないのである。罪悪感に気付いたとしても小銭はすでに機械の中。ガチャガチャの設計上入れた硬貨は取り戻せない。ただ、まだハンドルを回してはいないので上からは硬貨が見えているのだ。

 

どんどん重くなっていく俺の罪悪感。どうにかして取り出したいのだが爪も届かない。こうなったら店の人に伝えるしかない。しかし、俺に挿入する気はなかったという事を伝えておかないと、店主はかわいそうに思ってくれないだろう。こういうのはかわいそうと思わせると上手くいくんだ、幼いながらそのへんは分かっていた。考えた末、俺が店主のおばちゃんに伝えた言葉は

 

「スイマセン…転んだら偶然お金がバウンドしてココに入っちゃって……」

 

という言葉であった。なんてカワイイ言い訳なのだろう!はじめてのおつかい傑作選決定!!即DVD化!Youtubeにあがって翻訳されて海外でも大ウケ間違い無し!!ジャパニーズキュートボーイ誕生の瞬間である。駄菓子屋のおばちゃんは「なに?なに?」といった感じで店を出てガチャガチャの前にやってきた。

 

「あの…だから…転んだ時にグーゼンお金がこのスキマに入ってしまって……取り出したいんです……」

 

ああ!!カワイイ、なんてカワイイ言い訳なんだ。視聴率は70パーを超えている。ワイプで柴田理恵が泣いている。そんなカワイイ俺に対しておばちゃんがとった行動は

 

ガチャン!

 

「ああ…こういうの戻せないからね!!ハイ!!」

 

と言ってカプセルを渡し、すぐ店に戻ってしまった。大人になった今ならこれが不親切で大人げない対応というのが分かる。こんなにかわいい撮れ高のあるボーイに冷たすぎるだろ。

 

カワイイカワイイ俺は文句を言える訳もなく望まれない子供を引き取ることになった。カプセルの中身はと言うと、今でこそガチャガチャはハズレがない仕組みなっているが、ちょっと前のガチャガチャは台紙に書かれたアイテムが出ることはヒジョーに少なく、ハズレとしてしょうもないものが9割くらい入っているバクチの様なモノであった。カプセルを開けて出てきたものは今でも覚えている。出てきたのは「少年アシベが描かれたケースに入ったイイ匂いがする青の匂い玉」であった。俺は罪の意識にさいまれながら「少年アシベが描かれたケースに入ったイイ匂いがする青の匂い玉」を家に持ち帰ったのだ。俺は理性と戦い、負け、禁忌を犯してまでこの「少年アシベが描かれたケースに入ったイイ匂いがする青の匂い玉」を手に入れたかったのか?家へ向かう足取りは完全に重かった。どう言い訳するかをずっと考えながら歩いていた。

 

「ちゃんとうまく買えたの?」

 

自宅へ戻ると母親は安心と喜びが合わさった様な顔で迎えてくれた。

 

「うん…」

 

と言って母親に牛乳の入ったいよやのふくろを渡し、そのまま父親にお釣りとレシートを渡す。父親はレシートから逆算してお金が足りないことに気付いた様だ。

 

「……おい…少なくないかい??」

 

俺はもう泣きながら、グチャグチャな言い訳と分かっていながら

 

「あの……転んだらガチャガチャの機械にお金がグーゼン入っちゃって……僕はお金を戻したかったんだけど…おもちゃ屋のおばちゃんがムリヤリ……」

 

 

後半だけ聞くとおもちゃ屋のババアにイタズラをされた少年だが、実際には欲望に負けて望まれない子供「少年アシベが描かれたケースに入ったイイ匂いがする青の匂い玉」を持ってきてしまったずるいガキである。

 

 

 

「人のお金をこういう事に使ったらダメだろ!」

 

父親に強く怒られ俺はそのまま布団で泣いてしまい、そのまま疲れて眠ってしまった。はじめてのおつかいは失敗であった。

 

 

 

起きると机に冷たいミロが作られていた。野菜の描かれた少し濁ったガラスのコップだった、今でもそのコップは覚えているし、格別な味だったのも覚えている。なにせ俺が買ってきた牛乳なので冒険心や大人になったぞ感がそのミロには配合されていたのだから。

 

 

 

数年前、親とその話をしていたら親もそのエピソードは覚えていた。親の話を聞いていて初めて知った事実がある。その時俺が買っていたのは牛乳でなく飲むヨーグルトだったらしい。

 

何から何まで間違えてんじゃねえか。

 

 

 

そして寝てる間に牛乳を買いに行っていた親の愛にも気付いたのである。果たして俺の子供が産まれた時のはじめてのおつかいはどうなるのだろうか?少し多めにお金を渡して動向を伺おうと思う。