俺はドヤ街で得た四万円を…

変なバイト先にいた時の話。

そのアルバイト先はマイナーなアルバイト検索サイトを見ていたら引っかかってきた。接客や飲食はルールが厳しいので出来るだけサボりたい、座りたいという勤労意欲がくら寿司のウニの量ほどだった俺は「有限会社」などの単語で検索をかけ、個人でやっているバイト先を探していた。そこで見つけたのがホテルの清掃だというバイト。しかも家から自転車で行ける、服装自由と好条件だったので「よっしゃ!いつもつけてるオシャレ着の肘まであるレースのグローブをはめて出社できんじゃん!」と意気揚々で応募ボタンを押し、早速面接が決まった。

 

当時の家はちょっと行くと、いわゆるその日暮らしの人が多く住む地域だったのだが、面接の場所はまさにそこだった。「いや……ホテルっちゅーか、ドヤ街じゃん!一泊2000円とかじゃん!!ワンカップ持ったケツペロンたくさんいるじゃん!!」というのが面接地に着いた感想である。ケツペロンとはズボンがずり落ちケツがペロンとなっているのに気にしてないジジイの事だ。 

面接はそのドヤのオーナーが行ったのだが、このオーナーがもうダークサイドの荒俣宏といった顔つきで、もう悪の汁で煮詰めた荒俣宏の様な顔だった。仕事内容を聞いてみるとこのダク俣はこの辺のいくつもアパートを持ち、簡易宿泊所を経営している。ドヤ街だけに人の出入りが激しいので空きが出たら清掃をしてくれというバイトであった。

その他に「このあたりは海外旅行者や若者も集まるようになっているんですよ。なので出来れば集客のWEBサイトなども作って欲しいんですよね」など言っており、インターネット等には強いので「じゃあ、こうこうこういうのがありますよ!僕でも出来ます!」みたいな提案をしていたら採用が決まった。

 

勤務初日はまず清掃を教わった。ドヤの住人がそこに住む理由は様々だと思うのだが、申し訳ないのだが長年そこに住んでいる住人は非常にスメルがキツいのが多かった。そして会話が通じないのも多い。まあ清掃は住人とはほぼ会話をしないのだけど。

俺以外に雇われている清掃メンバーは2人おり、腰が大工道具のさしがね並に曲がっていて2秒に1歩しか進む事の出来ないまごうことなきなジジイ、理解力が通常の人の3/7くらいしかないオッチャン、と見事にハズレのメンバーだった。3人あわせて1.4人くらいの仕事量だったのではないだろうか?なんだその糞(フン)遊記は。

 

 

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さしがね

 

この3/7がめちゃくちゃ厄介で、まず掃除のイロハを全く把握していない。掃除において上の階からというのは常識であるが(最後に玄関が掃除出来るように)、エレベーターの無いマンションなので各階の階段を最後に掃除すれば効率が良くなることをこの3/7は学んでいない、2年くらい働いているらしいのだが何をやってたの?ポートボール?そして、やたらチンタラ遅いくせにタバコ休憩だけは頻繁に取るという。掃除した量よりも吸い殻の方が多いんじゃないってくらいチェーンかつヘヴィスモーカーだった。さしがねに関してはほとんど子供の遊びにおける「お味噌」というポジションに居座っていた。誰も文句すら言わない、そういう人って事だ。個性を認めるいい職場だな!

 

また、ダク俣もダク俣でヤベぇヤツであった。

バイト2日目は持っているアパートを全て紹介するということでダク俣の車の助手席に乗り案内してもらった。車内では素朴な疑問などを聞いてみる。

 

俺「ダクさんはなんでこういうドヤの商売を初めたんですか?」

ダ「いや、ワタクシはもともと企業に勤めていたんですけど……うつ病になってしまいましてね……しかし、友人というのはスバラシイもので、当時お世話になっていた方にここいらのビルの管理を任されまして。やはり任されるということは信頼されているということで。その方に対しての恩返しという感じですかね」

 

人に歴史ありだ。どんな状況でも信じてくれる人がいるってのは素晴らしい話じゃないか。

 

俺「そうですか〜。いい友人をお持ちなんですね。ダクさんがそういう経験をお持ちなので、こういったその日暮らしの方たちを救いたいという気持ちもあるってことですね」

 

基本、こういう経験のある方は弱者の気持ちが分かるんだろうなという意味を込めたトスだったのだが、まさかのカウンターアタックをキメられた。

 

ダ「いや、ほんとココにいる奴はクズですよ。逃げて、逃げて、逃げて……ここにたどり着いたヤツばかりです。おおきちさん、ほらあの人の背中を見てください。こいつらの背中は煤(すす)けています。ああなったら終わりですよ、こういうヤツらは」

 

ダク俣はその後もずっとこの街そして住人批判を続けていたのだが、俺は途中から聞いていなかったし、目をつぶっていたかった。このフロントガラスに映る風景すら見たくなかった。さすがにフォローのおおきっちゃんと呼ばれる俺でも黙るしか無い時がある(かくれんぼの時とか)。

 

 

アパートの案内が終わると「空き部屋が出来た」と言うのでメンバーと空いた部屋に清掃へ向かうことになった。部屋に入ってみると私物が置かれたまんまである。空いてねえじゃん。

 

俺「すいません、これ人まだいるんじゃないですか?」

メ「いや、もう亡くなったからキレイにするんだよ」

 

と言いメンバーはゴミ袋を手に掃除を始める。この住人は最近死んだ様だ。私物ではない、これは遺品なのか……。基本的にこのアパートに住んでいる方は身寄りのない人が多いので遺族もいない。なのでこの部屋の私物は全部俺らで処分するらしい。さすがに死体は別の業者が処理をするのだが、片付けていく内にパーソナリティが分かるものが表れるのがツライ。保険証であったり、医療費の明細であったり、クスリであったり、手紙、写真……見たことのないex.住人の像がどんどん浮かんでくる。

 

俺、こんなクる仕事だと聞いてなかったぞ!!

 

 

結局このバイトは7日くらいで辞めた。さらなるキッカケがあったのだ。

 

その日、事務所でダク俣と仕事の話をしていると玄関にスーツを着た男性が現れた。

 

男 「すいませーん!今日、面接でお邪魔した□□ですけども……」

ダ「え……?今、何時ですか?12時半ですよね?12時の約束のはずでしたよね?」

男「えっ!?12時半じゃなかったですか!?す……スイマセン!勘違いしておりました!遅れて申し訳ありません」

 

どうやらその男は12時に面接の予定だったのだが、時間を勘違いしていたらしい。たしかに遅刻は悪いことだ。勘違いもスケジュール管理ミスである。ただ、ブッチする奴も多いであろう中、ちゃんと来ているは来ている。面接は行うだろう。

ダク俣は玄関にスーツの男を残し事務所に戻って来て、何ごともなかったのように俺に仕事の話の続きをはじめた。キリのいいとこまで話したら面接に向かうのかなと思って話を聞いていたのだけど、仕事の説明がある程度終わってもダク俣はどうでもいい話を俺に10分くらい話し続ける。その間もスーツの男は玄関で立って待っているのに。一度俺の方から「……面接は?」と訪ねたのだが、話をはぐらかしどうでもいい話を続けるのだ。それから5分くらいして、話を遮って伝えた。

 

俺「ダクさん……すいませんあの面接の方、待ってらっしゃいますけど……」

ダ「あああ……ウン、分かりました……」

 

と、いってダルそうに玄関に向かいスーツの男性を連れて行った。なんだったんだ。あの15分はなんだったんだ……?

 

30分後、ダク俣は事務所に戻って来たのでたずねた。

 

俺「あの、玄関でずっと待たれてたのに、ずっと事務所内で僕と話してましたよね?なんですぐ行かなかったんですかね?」

ダ「うーん……彼は30分、ワタクシをですね、無断で待たせたわけじゃないですか?ああいうヤツはですね、世の中をナメてるんですよ。こういうヤツには同じ思いを味あわせてやらないと、私の痛みが分からないんですよ。もちろん彼は落としますけどね」

 

ダク俣は当たり前の様に飲み込みきれないような濃い毒を俺に撒いてきた。この様な人がこの世にいるのか、悪びれる様子もなく悪意を人に説明できるような精神の持ち主がいるのか。

 

俺はその日の内に退職を申し込んだ。退職に際して、バイト代として領収書を書かされた。手元の電卓で計算して4万円ほどだったので領収書を書き、渡した後に気付いた

 

俺「あ!すいません、WEBサイトを制作した時間を料金に含めるの忘れていました……」

 

面接時の通り、俺はWEBサイトも一応作っていたのだ。

 

ダ「……ああそうでしたね……。まあ、でももう書いちゃったし……。うーん、お金いります?いらないでしょ?(笑)」

 

その発言を聞くと、再度計算して領収書を書く気は起きずそのまま4万円をもらって、自転車に乗り込んだ。

 

「クソが!なんでお前の様なヤツが存在しているのか!!」

 

という思いを胸に込めて自転車を漕いだ。この最低最悪な気持ちをどうにかしたいと思った結果、俺はペダルを漕いでエッチなお店がある駅に向かったのである。

 

 

 

 

 

あけましておめでとうございます。