キンタマをぶつけると平衡感覚がなくなる
移動はよく自転車を利用している。
その日も自転車移動であった。
冬であったため、手袋とニット帽をし、トートバッグに職場で使う着替えを詰めて駐輪場へ向かった。普段は自転車に乗る際、必ずリュックに荷物を入れるのだが、その日は間違ってトートバッグに入れてしまったことに駐輪場で気付き「しまった!……戻る……には時間がもったいない!このまま行くか!」と、出発したのが間違いであった。
トートバッグと言ってもA3が入るようなキャンパス地のオサレなものではなく、ノベルティで貰えるようなペラペラ生地のA4が縦にギリギリ入るくらいのサイズの物だ。そんなサイズなので着替えを入れただけでボールのようにパンパンに膨れていた。
それを肩に掛けながらサーッと走っていたのだが、脇をしめておかないとバーッグがバタバタと動くのが途中からめんどくさくなり、トートバッグを肩から外し、ハンドルにバッグの取っ手をぶら下げて走っていた。
こんな感じで走っていた
バッグはパンパンに詰まっており十分重みがあるので、ハンドルにかけてもブラブラと振り子の様に動く。危ないのでなるだけハンドルの端っこに置いておいたつもりだが、ちょうどそこは自分の膝が当たる位置であり、膝にぶつかったバッグは前輪に当たってしまった。
前輪は回転している、そこにバッグがぶつかる。
前輪にバッグがぶつかると、車輪がバッグを吸い込んだ。僕の目には前輪が動いていないのに前に進むという状況が一瞬だけ映った。刹那、地面が溶けたかのようにグワッと近づいてきた。
バッグを挟んだ前輪は急停止をし、そのまま慣性に従い自転車は前輪を支点に前に吹っ飛んだのである。
サドルから自分が投げ出されるスピードよりも、自転車が吹っ飛ぶスピードの方が速かったからだろう。水平に吹っ飛んでいる自分の体めがけて、いやキンタマめがけてサドルがぶつかって来たのである。ビリヤードの手玉が俺の1番、2番ボールにぶつかって来たのである。
余談だがビリヤードは棒がキューであり球もキュウと読む。分かりにくいよ!
キンタマを撃った痛みというのはなんと不思議かつ慣れないものだろう。その時、キンタマから氷水が流れている様な感覚を味わった。
「あ!!ヤッちった!!血ィが出た!!さよなら、僕のオナニーライフ。さようならセックス。さようならパステルズ・バッヂ」
体をなんとか起こし、鈍痛に耐えながら手袋を外し恐る恐るジーンズに手を伸ばし股間を触る……感覚的にはグショグショになっているハズ……
濡れていない!!ジーンズの隙間から手を入れ直にキンタマを触ってみても濡れていない!ヨカッタ……血は出ていなかった。
濡れた感覚から血が出ていないということの確認まで、もの凄く焦った。人生の楽しい事の内75%はキンタマが無いと楽しめない。いや、キンタマのせいで辛いことも経験するんだけど。たまに「俺にチンコがなかったら、あんな恥ずかしいこと起こらなかったのに……!」って悔しくなることあるもんね。
血が出ていないのが分かり安心したのも束の間、腹の鈍痛が収まらない。そして膝に手を当てないと立っていられない。体中から氷の様な汗が流れているのが分かる。
そのままよろめいてしまった。目眩がする。気分が悪い、吐き気が襲ってきて小ゲロが出る。BGMというか映像で例えるならUnderworldのBorn slippyの様な、モヤがかかり世界がゆっくりになった気分に陥ってしまった。
この様な痛みに陥った時、皆様は何を考えるのであろうか?
僕はトイレとかで腹痛に耐えている時は
「スイマセンスイマセン!!!なにかと引き換えでいいからこの痛みをおさめて下さい!!」
「もし女性の生理の痛みというのがこれなら女性はスゴい!俺は耐えられん!」
「もしこの痛みがずっと続く病気ならむしろ死んだほうがマシだ!」
この様な事を考える。
あと、もう出来るだけ"痛みを除去する"ということに集中したいので、極力ノイズを減らす。帽子を外したり、上着を脱いで軽装になったり、音楽を聴いていたらイヤホンを外す、TVは消すみたいに。痛み耐えている間、ありとあらゆるものがノイズになる。
深呼吸をしていたらなんとかおさまったのだが、Tシャツは冷や汗でビショビショになってしまった。
よく見たら手のひらに擦り傷が出来ていた。
自転車を転がしながら職場へ向かったのだが、間に合いそうにないのでやっぱり乗った。
キンタマの話をするとすぐ「女には分からない」という男がいるが、もし生理がキンタマぶつけと同じような痛みなのであれば、もう尊敬以外の何物でもない。
スプツニ子が生理マシーンというのを作っているみたいなので体験してみたい。